医学部は男性と比べると女性の数が少ないといった印象があるでしょう。
実際に、日ごろ受診している病院の医師でも、女性のほうが少ない傾向にあります。その理由はなんでしょうか。男女比の変化や、女子学生が医学部を目指す際の注意点についてもご紹介します。
主要医学部の男女比
大学ごとの実際の男女比を見てみましょう。数字は、男性:女性の比率となっています。
- 富山大学 46:54
- 埼玉医科大学 53:47
- 愛知医科大学 58:42
- 東京医科歯科大学 58:42
- 金沢医科大学 59:41
- 北里大学 59:41
- 島根大学 60:40
- 東海大学 60:40
- 愛媛大学 60:40
- 札幌医科大学 61:39
- 関西医科大学 62:38
- 兵庫医科大学 63:37
- 岩手医科大学 69.9:30.1
- 自治医科大学 73.2:26.8
- 東京女子医科大学 0:100(女子大のため)
大学によって数字は異なりますが、平均では30~40%が女性のようです。関東ではほぼ同じ比率といっても良いでしょう。地方のほうが男女比が開いている傾向にあるようです。しかし、以前の医学部では女性の数は10%という時代もありました。それと比べると、現在では女性の数が増え、医学部の男女比も開きがなくなってきています。
医学部を志望する女性は増えている
一般企業において、女性の活躍を期待し、待遇面などにおいて配慮している企業が増えています。医師の世界ではそこまでの変化はないものの、専門職であり就職や再就職も比較的やさしい職業である医師は、男性だけではなく女性にも人気となるのは納得できることです。何より、人の命を救える専門職として、人の役に立ちたいと思うのは、男性だけではないでしょう。
現に、2016年度では、佐賀大学、愛媛大学、弘前大学、浜松医科大学、旭川医科大学、滋賀医科大学、私立で東京女子医科大学、愛知医科大学、産業医科大学、金沢医科大学、聖マリアンナ医科大学などで、女性の医学部への入学者数が40%を超えています。
特に産婦人科や小児科などでは、女性の医師を希望する患者さんも多いです。そういった需要を考えると、女性の医師が増える傾向にあるのも当然のことかもしれません。
女性の志望者が増えることによって、志願者数の倍率が高くなります。近年では、学内の成績の上位は女子が占めている学校も少なくないようです。そういった女子が医学部を受けることで、それぞれの医学部のボーダーラインのアップにもつながります。医学部合格が困難になったのは、女性の医学部志望者が増えたことが理由のひとつともいわれているのです。
女性は医学部に入りにくい?
医学部は、以前よりも女性が入学しやすくなってきましたが、すべての大学がそうとは限りません。あくまでもウワサ話ではありますが、私立大学のなかには男子の志望者を優先する大学もあるともいわれています。もし、そういったウワサを信じるのであれば、女性が医学部を目指すのに、国公立大学を志望するというのもひとつの方法です。国公立大学は、私立大学よりも女子の合格者の割合が多いので、女子が入りにくいという傾向も私立大学より弱いといえまるはずです。
また、私立大学であっても、女子の割合が多い大学もあります。大学の傾向や男女比、医学部ごとの事情も確認し、志望校を決めると良いでしょう。そういったデータから、女子が入学しやすい大学が見付かるかもしれません。
しかし、現在、女性の医師数は増えています。一般企業において、職種による男女比がなくなりつつあるのと同様です。そんなご時世に、女性だからという理由で医学部に入りづらいということは考えにくいことです。試験内容の出題傾向をしっかりと押さえて、合格に必要な得点を取れば問題ないはず。女子学生であっても心配は不要です。しっかりと勉強して志望校を目指しましょう。
女性の志願者が注意したいポイント
医学部で医師を育成するために必要な金額は、一人当たり1億円といわれています。大学の医学部は国からの税金によって医師育成を行っているため、医師になったら長く続けてほしい、活躍してほしいと考えるのは当然でしょう。女性は結婚や出産、育児などで、医師を辞めてしまったり、休職してしまったりする可能性があります。せっかく医師になったのに続けられないということになれば、男子学生を合格させて育成したほうが良い、ということになりかねません。
上記の理由から、面接では結婚や出産などについて聞かれることがあります。考え方や将来のライフスタイルなどについて、くわしく聞かれることも。面接は合格するための重要なポイント。筆記試験の結果が良くても、面接試験で不合格になってしまうかもしれません。面接試験を無事合格するためにも、女性は結婚や出産、将来についての考えをまとめておき、何を聞かれても慌てないよう対策を立てておきましょう。
また、医学部の試験は難関です。受験勉強の方法も調べましょう。やみくもに勉強するだけでは合格できません。医学部の出題傾向を把握するために、過去問を繰り返し、実力をつけることも重要となるでしょう。
東京医科大学の不正入試について
うわさで終わってほしかった入試差別
2018年、衝撃的な報道により東京医科大学入試の実態が明かされました。
筆記試験について女子は得点を8割に減点、二次試験小論文については現役と三浪男子には加点し、女子と四浪以上の男子には加点をしないという明らかな差別工作を行っていたという報道です。そしてこの差別工作は少なくとも10年以上前から存在していたという事実も明らかになりました。
差別工作の背景
今回の問題は、文科省管轄の「私立大学研究ブランディング事業」に申請する際、便宜を図ってもらうために官僚子息の得点を不正に加算したことから発覚しました。以前から同窓生の子弟が合格しやすいように、個別に得点調整が行われた事実もあるそうです。
なぜ差別をしたのか?
決して許されることではありませんが、単に関係者の子弟を合格させたいのであればいわゆる「高下駄を履かせる」方式で個別加点を行っていたでしょう。しかし一連の問題では、女子や浪人回数の多い男子に対する一律的な差別を行っているのです。その理由は、「結婚や出産の節目で離職率が高いから」という理不尽なものでした。
生涯出産率が年々低下している現実を危惧し、国として不妊医療の補助を行うなど出産への意欲を促す流れにある中で、医療に携わる現場で時代に逆行した自分勝手な考えが横行している現実に、愕然とした受験生も多かったことでしょう。
医学部における男女の合格率について
過去6年の医学部の男女合格率について
ここに、厚生労働省が2018年9月4日付速報として報道発表した数字を記載します。
2018年 男性12% 女性9%
2017年 男性11% 女性10%
2016年 男性12% 女性10%
2015年 男性11% 女性10%
2014年 男性11% 女性9%
2013年 男性11% 女性10%
※男女それぞれの受験者数に対する合格者率
パーセント表示で見ると男女の合格率に大きな変動はないようです。
合格者数で見てみると
2018年 男性8,812人/76,572人 女性4,597人/48,601人
2017年 男性8,826人/77,249人 女性4,782人/47,968人
2016年 男性8,972人/77,490人 女性4,419人/47,019人
2015年 男性8,561人/76,911人 女性4,419人/46,307人
2014年 男性8,330人/77,378人 女性4,174人/46,991人
2013年 男性8,139人/71,556人 女性4,075人/41,845人
※合格者数/受験者数
母数となる受験者数は男子は6年前より5,016人増、女子は6,756人増と1,740人の差があり、女子の医学部受験者数が増えてきたことを感覚的にも感じられる数字が出ています。
受験者数が増えてきたのに合格率はほぼ変わらず
これにはいろいろな情報が行き交っていて、不正入試事件が発覚したあとはどうしても色眼鏡で見てしまうこともあるでしょう。ただ、理系大学での男女比は1.9:1、文系大学では1.3:1というデータもあり、受験に対する向き不向き、対策の立て方などに個性が影響している可能性もあります。
医学部を受験・合格する女子の数は年々増加しており、「女子は理系科目が苦手」というネガティブイメージを払拭するものです。それぞれに合った勉強法を見つけることで今後合格率・合格者数はどんどん変化していくでしょう。
医療業界の男社会について
東京医科大学不正入試事件をきっかけに、現場の声が報道されています。
女性医師をとりまく現状
一般的な話ですが、結婚で夫の勤務に合わせて転居するパターンが多く、出産にいたっては労働基準法に定められるほど休暇が必要となる、女性の働き方。どちらのケースでも、休職・離職を選ばざるを得ないのが実情で、これは医療業界においても例外ではありません。女性医師の就業率は医学部の卒業後は減少する傾向にありますが、35歳以降は再び回復しています。育児に関して言えば、出産直後からベビーシッターに子どもを預けて復職する医師もいます。決して医業から離れたいわけではないのです。
大学受験からすでに就職後を危惧?
確かに、働く医師の立場からでは転職でも、雇う側からすれば退職と変わらないのも事実です。しかし、そこに性別による違いなどあるはずはなく、男性なら「転職」だが女性なら「退職」などと捉えるのはもってのほか。辞める可能性が高い人を就業させない、いわばリスク回避的な発想は自然ですが、問題はそこに性差別があり、しかも大学入試という就職以前の段階で行われていたということです。入試は就職試験ではありませんが、将来的な医局人員の確保という観点で、まるで採用試験のような捉え方をされているのが見え隠れします。採用側の意見に、結婚や出産が「リスク」として挙げられてしまうのは男性社会の弊害で、こうした風潮は医療業界においてより顕著といえるかもしれません。
合格率や合格人数だけで判断すべきでない
受験を経験したことのある人なら誰でも意識したことがある「合格率」「合格人数」といった数字。これらを参考に大学を選ぶ人も多いかと思いますが、これらはあくまでも数字であることを忘れてはいけません。
額面の合格率に惑わされない
そもそも、母体となる受験者数を見てみても、既に男女差があります。女子の医学部希望者が増えてきたとはいえ、まだまだ医師を志す学生の多くは男性なのです。もし男女それぞれが全く同じ学力であれば、その時点で合格率はイコール受験者数の割合です。仮に受験者の内訳が男性80名女性20名で「全く同じ学力」だとしたら合格率は8:2で、数字的には圧倒的に低く感じますが20名全員が受かった100%の合格率、とも捉えることができます。前提条件によっていくらでも解釈が変わる数字と言えますね。
合格人数もあくまで数字
どの学部でもそうですが、複数校を併願受験するのがほとんどで、受かったけど入学はしないという人も多いでしょう。実際に入学したかどうかだけの話で、その数字が大学側の女子生徒受け入れの方針を表しているとは一概には言えません。敢えて言えるとすれば「女子生徒が多くて通いやすそうだな。」とか環境的な判断基準にはできるのではないでしょうか。
悲観的にならなくていいが注意は必要
今回の東京医科大学不正入試事件で、女子生徒や浪人回数の多い人への差別が発覚したことはとても残念なことですが、すべての大学が同じことをしているわけではありません。志望校の合格率や、人数などの数字で必要以上に悲観的になる必要はないでしょう。
ただ、これまでの文科省の調査によって、昭和大学医学部をはじめとして、複数の大学が入試の際に不正な操作を行っていたと判明しています。文科省は不正が見られた各大学に自主的な公表を求めていますが、現状、すべての大学が名乗り出ているわけではなさそうです。「自分の志望校はどうなのだろう」と疑心暗鬼になってしまいそうですが、調査結果が公表されていない以上、あまり考えすぎても仕方ない部分ではあります。まずは「この大学で学びたいんだ」という思いを大事に、合格に向けてしっかりと学力を高めていくことが大切です。
まとめ
現在、女性の医師は確実に増えてきています。医療の現場において、女性医師だからこそできることがあるはずですし、患者さんからの要望もあるでしょう。大学によっては男子学生のほうが多いのは事実ですし、残念ながら不正入試を行っている大学があることも判明してしまったものの、医学生全体の男女比率も徐々に変わってきています。女性だから医師になるのは難しいのでは?とむやみに心配するよりも、医師になるという目標をしっかりと持ち、努力を重ねていきましょう。