「医学部」と聞くと、『勉強が出来るのね』と思う方も多いかと思います。
それでは、医学部の学生は実際にどのような勉強をしているか知っていますか?今回は医学部で学ぶ科目について、どのような種類があり、どのようなことを学んでいるのかを、具体的にご紹介していきます。
医学部で学ぶ科目その1:一般教養科目
一般教養科目は、他の学部の学生とほとんど変わりません。
文化や哲学を学ぶ人文科学、伝統や制度を学ぶ社会科学、生命や環境を学ぶ自然科学、スポーツや健康を学ぶ健康科学、ドイツ語・フランス語・イタリア語・中国語などの第二言語習得など、他学部の学生と一緒に、自分の興味のある科目を選択して学びます。
医学部特有の教養科目としては、細胞生物学、有機化学、医療英語、医療倫理などがあります。
これらは医学部の学生のみが受ける必修の教養科目で、医療を学ぶ上で必要になる基礎的な科目です。医療を学ぶ上で、人の身体の仕組みを理解することは欠かせません。
細胞生物学は、高校生物の延長のような内容で、「細胞とは」から始まり、細胞分裂の仕組みや構造などを確認します。
同じく有機化学も高校化学の延長で、化学物質の構造や結合、反応などを確認します。医療倫理は実際の現場で直面しうる倫理的な問題を学びます。
治療拒否や宗教的な問題、終末期医療の葛藤などを通して、責任とは何か、「人のため」は本当に相手のためになっているかなど、早く答えを見つけるのではなく、悩み続けることの必要性を学びます。
医学部で学ぶ科目その2:基礎医学
こちらでは、「基礎医学」の中で代表的な学問について紹介させていただきます。
基礎医学
基礎医学では、医学部の学生のみが受ける専門的な科目です。
高学年になると、実際に臨床現場で実習することになりますが、そのために病気について、原因や検査方法、治療方法などを知っている必要があります。
例えば「肝臓がん」であれば、がんは遺伝子の変異によって細胞が無秩序に増殖してしまうことが原因ですが、では正常な肝臓の構造とは何か、遺伝子とは何か、何故変異が起こるのか、細胞はどのように増殖するのかなど、病気における基礎を学ぶのが基礎医学になります。
解剖学
解剖学では、4~5人のグループでご献体を解剖していき、身体の構造を筋肉や骨1つ1つ、神経や血管も1本1本同定していき、人の身体について学びます。
組織学は、身体の一部をスライスしたものをプレパラートに固定し、顕微鏡を用いて細胞レベルでその構造を学びます。
生理学は、身体の仕組みに関する学問です。
食事で取り入れた栄養素からエネルギーを作り出す仕組み、その生成物の代謝や不要物の分解、身体の中で起こっている細胞間での情報伝達など、細胞レベルの細かい仕組みを学んでいきます。
動物実験学は、医療の進歩において欠かすことのできない動物実験について、その意義や規則、方法、動物実験に対する倫理などを学びます。
遺伝学
遺伝学は、遺伝子の構造や機能、遺伝形式の種類、変異の生じる仕組みについて学びます。
統計学
統計学は、医学と密接な関係にあります。例えば、病気に対するある治療法が本当に有効であるか否かを示すためには、治療しない場合と比べてその治療を行った方が優位に改善するということを証明する必要があります。この時に必要となるのが統計学です。
また、病気と原因を結びつけることや、年齢や性別によってリスクが異なることを示すためにも、統計学は必要不可欠です。
この他、薬の作用を学ぶ薬理学、得られた組織の情報から病名を診断する病理学、感染症の種類や特徴、症状などを学ぶ細菌学、ウイルス学、寄生虫学など多くの科目があり、また、解剖学でも肉眼解剖、神経解剖、生理学でも神経生理学、応用生理学、膜生理学とさらに細かい分類があり、科目数は非常に多くなります。
このため、内容が難しいだけでなく、試験に追われることでも厳しい日々が続きます。
医学部で学ぶ科目その3:臨床医学
3年生の後半あるいは4年生から始まる臨床医学は、病気について詳しく学びます。基礎医学では、どの科でも知っている必要がある人の構造、仕組みについて学びますが、病気についてはほとんど触れません。
臨床医学に入って初めて、世間が思い描くような「医学部」の勉強が始まります。
臨床医学では、すべての科における病気について、原因から疫学(えきがく:かかりやすい人の年齢や性別などの特徴)、診断基準、検査法、治療法、予後(よご:その患者さんが回復する見込み)などについて学んでいきます。
代表的な科目
- 内科(循環器、消化器、呼吸器、腎臓、血液、内分泌、神経)
- 外科(循環器、消化器、呼吸器、内分泌)
- 小児科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 整形外科
- 脳神経外科
- 眼科
- 耳鼻咽喉
- 歯科口腔外科
- 皮膚科
- 放射線科
- 麻酔科
- 救急科
- 精神科
やはり覚えることが多く、試験に向けて理解と暗記の日々が続きます。
すべての診療科の勉強が完了し、全国の医学生が共通で行う試験(CBT、OSCE)を突破すると、臨床実習に参加する許可が得られます。
医学部で学ぶ科目その4:臨床実習
臨床実習では1~2週間ごとに大学病院内のすべての診療科を回りつつ、現場の医師による指導を受けます。
初診の患者様であれば、これまでの経緯を聞き、症状の現れ方やその期間、状態の変化などから、これまでの知識をもとに疑われる病気を鑑別し、診断にたどり着く過程を学びます。
また、入院中の患者様であれば、毎日の診察から状態を判断し、治療の方針や今後生じうる可能性などについても学びます。
これらのような病気に関する知識だけでなく、実際に患者様相手に実習を行うことで、採血や消毒などの手技能力やコミュニケーション能力も身につけます。
これまでのように試験に追われることはあまりありませんが、教科書と実際の現場のギャップを埋め、覚えた知識を使える知識に変えるためには、毎日の勉強が欠かせません。
まとめ
医学部では、通常の教養科目は他の学部の学生と同じように履修します。専門的な内容については、低学年から中学年のうちにみっちりと基礎を叩き込まれ、高学年になってやっと病気について学ぶ“医学部らしい”勉強が始まります。
医学部1~2年生が親戚の家に行き「子供が風邪を引いちゃったんだけどどの薬を飲めばいいかしら」と相談されて困った、というのはよくある話です。
適切な医療を提供するためには、病気そのものと治療法をただ暗記するのではなく、その病気が生じる機序について、基礎から学ぶことが重要であるといえます。